予防と健康管理ブロック・レポート

 

 

1.       はじめに

アスベストと悪性中皮腫の問題が連日マスコミ報道で大きく取り上げられ、悪性中皮腫に対する意識が全国的に高くなってきている。悪性中皮腫は、ほとんどの場合アスベストの被曝が原因だとされている。しかし、具体的な発生機序は判明していない。現在、悪性中皮腫の患者数は増加傾向にあり、今後も増加していくことが予想される。悪性中皮腫の被害を少なくするには、疾病の早期発見が重要だと思われる。

 

 

 

2.       選んだキーワード

選んだキーワードはmesotheliomaとtumor marker。

 

 

3.       選んだ論文の概略

「Novel Maker D2−40,Combined With Calretinin,CEA,and TTF−1 (An Optimal Set of Immunodignostic Markers for Pleural Mesothelioma)」

Takeshi Mimura,Akihiko Ito,Toshiko Sakuma,Chiho Ohbayashi,Masahiro Yoshimura,Noriaki Tsubota,Yutaka Okita,Morihito Okada

 

[はじめに]

 悪性胸膜中皮腫の確定診断は一般的に難しく、特に肺腺癌との鑑別が問題となる場合が多く、診断に必要とされる免疫染色マーカーは数多い。D2−40は新しいモノクローナル抗体で、生殖細胞と生殖細胞腫瘍の40−kD抗体と反応する。この抗体は、リンパ関連物質やリンパ組織由来の腫瘍の検出に有効であると証明されている。臨床上、悪性胸膜中皮腫の診断は、悪性胸膜中皮腫に良性の腫瘍や他の癌腫が混じってしまうため難しい。この論文において、診断に関して針生検や胸膜滲出物の細胞診の代わりに、我々は十分量の組織採取が可能なVATS胸膜生検を最重要と考えている。この論文の目的は、慣例的に使用されてきた免疫組織化学マーカーと比較して、D2−40の悪性胸膜中皮腫の診断における潜在的有効性を分析することである。

[対象と方法]

 検討1:手術標本で確定診断が得られた胸膜中皮腫66例(上皮型48例、肉腫型4例、二相型14例。また、International Mesothelioma Interest Groupの病期分類によると、8例がstageT,15例がstageU,38例がstageV,5例がstageW)と肺腺癌66例において、中皮腫陽性マーカーとしてcalretinin,D2−40を、陰性マーカーとしてCEA、TTF−1を用いて免疫染色をおこなった。検討2:最近15ヶ月間にVATS胸膜生検を行った悪性中皮腫と思われる患者15例についてD2−40,calretinin,CEA,そしてTTF−1を用いて最終診断をした。

[結果]

 検討1:上皮性悪性胸膜中皮腫の免疫染色の結果は、D2−40とcalretininが強く発現されていた。染色部位に違いがあり、calretininは核と細胞質、D2−40は細胞膜であった。逆に、肺腺癌においては両抗体ともに検出されなかった。CEAとTTF−1の反応は、肺腺癌の核と細胞質において観察された。中皮腫における各抗体の陽性率はcalretinin 87.9%,D2−40 84.8%,CEA 0%,TTF−1 0%,上皮型に絞るとcalretinin 89.6%,D2−40 89.6%であった。一方肺腺癌ではcalretinin 4.5%,D2−40 4.5%,CEA 95.5%,TTF−1 92.4%であった。検討2:悪性胸膜中皮腫8例(上皮型5例,二相型3例)、腺癌7例であった。悪性胸膜中皮腫ではcalretinin、D2−40が全例陽性、CEA,TTF−1は全例陰性であった。腺癌ではcalretinin、D2−40が全例陰性、CEAは全例陽性で、TTF−1は肺腺癌4例で陽性であった。

[考察]

 現在、悪性胸膜中皮腫の診断は、病変の組織病理診断と、臨床上や放射線医学上の所見の評価に頼っている。胸膜液細胞診や胸膜針生検では、なかなか免疫組織化学分析をおこなうのに十分な量の検体を得ることができない。そこで、病巣から十分な量の組織を得るために、私たちはVATS生検をおこなっている。

免疫組織化学は悪性胸膜中皮腫の最も有効で決定的な診断方法であると証明されているが、一つの抗体で明確に感受できないことが一般的に認識されている。臨床上、上皮性悪性胸膜中皮腫と肺腺癌を組織学的に区別することは難しく、また副次的な知識を必要とする。したがって、胸膜腫瘍を区別する診断のために、いくつかの抗体を使うべきである。そして、現在抗体パネルの使用が臨床上受け入れられ、試みられている。しかし、抗体の選択肢は様々である。この研究において、D2−40とcalretininに免疫反応を示し、CEAとTTF−1に反応を示さなかった腫瘍は明らかに悪性胸膜中皮腫であった。D2−40とcalretininに反応を示さず、CEAとTTF−1に反応を示したものは悪性胸膜中皮腫ではなく、肺腺癌であった。注目すべきは、悪性胸膜中皮腫を区別する診断において、D2−40とcalretininが陽性マーカーであるが、一方CEAとTTF−1は陰性マーカーであるということである。

 D2−40は最近開発されたモノクローナル抗体である。この抗体は、リンパ行性転移腫瘍の診断や、リンパ浸潤性の腫瘍を診断するのに有益である。D2−40を用いて、Chu et alは33例の上皮性中皮腫のうち33例において強い細胞膜反応を論証した。また、Ordonezも29例の上皮性中皮腫のうち、25例のD2−40の陽性反応を報告している。上皮性悪性胸膜中皮腫の大部分において、D2−40の細胞膜の反応はびまん性で強いものだった。しかし一方で、漿液性の癌腫などでは弱い反応であった。私たちは、免疫組織化学試験とWesternブロッティングを通して、上皮性悪性胸膜中皮腫による胸膜浸潤におけるD2−40のたんぱく質発現を論証した。

VATS胸膜生検で採取した組織は、悪性胸膜中皮腫ではcalretininとD2−40がすべて陽性で、CEAとTTF−1はすべて陰性であり、肺腺癌では中皮腫陽性マーカーはすべて陰性であった。胸膜中皮腫の確定診断、特に上皮型中皮腫と肺腺癌の鑑別にはcalretinin,D2−40,CEA,TTF−1の選択が極めて有用である。

 

 

4.       選んだ論文の内容とビデオの内容を踏まえての考察

ビデオでは、大手機械メーカー「クボタ」の石綿を使った水道管や建材を製造していた旧神崎工場(兵庫県尼崎市)で、過去に従業員ら78人が石綿特有の中皮腫などで死亡していたことや、工場周辺の一般住民への被害があったことが扱われていた。アスベストは、吸い込んでから症状が出てくるまで数十年の潜伏期間があるので、これから被害は拡大していくことが容易に予想できる。夫の作業着を洗濯していた妻でさえ被害にあっている。学校の校舎などにも使用されているのだから、私たちも少なからず吸っていると思われる。被害が拡大することを防ぐには、これ以上アスベストを使用しないことは勿論のこと、もう吸ってしまった人に対するケアが必要だ。例えば、中皮腫を発症した場合などはできるだけ早期発見されることが望ましいだろう。しかし、中皮腫は肺腺癌との鑑別が難しく、きちんとした知識を持った臨床医でなくてはなかなか診断できない。選んだ論文では、中皮腫と肺腺癌の鑑別に免疫組織化学的診断を用いていた。結果は、中皮腫と肺腺癌が明確に区別できるものであった。calretininを使えば核と細胞質に反応が現れ、D2−40を使えば細胞膜に反応が現れることで、どちらかが反応しにくい状況に対応できると考えられる。また、calretininやD2−40といった悪性胸膜中皮腫の陽性マーカーが肺腺癌では陰性マーカーとなり、CEAやTTF−1といった肺腺癌の陽性マーカーが悪性胸膜中皮腫では陰性マーカーとなっていて鑑別が容易であると思われる。

 

 

5.       まとめ

 今回、アスベストや中皮腫に関するビデオを見たり、論文を読んだりしてみていろいろと考えさせられた。現在のようなアスベスト被害の拡大の原因は、企業にあると私は思う。企業がアスベストに代わる材料が無かったからといって、アスベストを使い続けたから、現在のような状況にあるのではないだろうか。もちろん国にも責任があると思う。かなり昔から、人の体に有害であると分かっていたにもかかわらず、アスベストの輸入を禁止せずにいたり、その他の規制が遅れたことは大問題だろう。クボタショックが起きてから国の態度は若干改善された。それによって、これから被曝する人は少なくなると思われる。しかし、被曝してから病気が発症するまで長い潜伏期間があるため、これまでに被曝したたくさんの人が亡くなっていくだろう。それにまだ問題がある。今現在あるアスベストが使われている天井や床を、どうするのかという問題である。少しずつでも除去していかないと、もし大地震が起きたら、阪神大震災のときのように大量のアスベストが空中に飛散することになるかもしれない。そうならないためにも、より有効なアスベストの除去方法を考えなければならないだろう。気をつけなければいけないのはアスベストだけではない。例えば、喫煙である。アスベスト被曝と喫煙のリスクを併せ持つ人の、肺ガンの罹患率が数倍〜50倍になることが指摘されている。アスベスト被曝というリスクファクターは、個人ではどうしようもない部分もあるが、喫煙というリスクファクターは、個人でどうにかできると考えられる。健康に関するリスクファクターを減らし、疾病の予防をして、自らのQOLを向上させていくことはとても大事なことだろう。